本来であれば4月に公開予定だった映画「糸」ですが、新型コロナウィルスの影響で公開が延期となっていました。
8月21日(金)にようやく公開が決定しましたが、それに先駆けて特別先行上映が8月12日(水)にありましたので、早速観てきました!!
中島みゆきさんの名曲「糸」をモチーフに作られた本作。
想像以上にスケールの大きな作品でした!!
映画『糸』感想 名曲「糸」の歌詞にみる映画のテーマとは
中島みゆきさんの名曲「糸」といえば「縦の糸はあなた 横の糸は私」という、誰もが知っている有名な歌詞がありますよね。
恥ずかしながら私はこの歌詞から、とある男女がすれ違いながらも、縦糸と横糸を紡ぐように、愛を紡いでいく恋愛のお話かと思っていました。
もちろん間違いではないんですよ。
同い年の漣(菅田将暉)と葵(小松菜奈)が13歳のときに初めて出会い、恋をし、引き離され、別々の道を歩み、そして18年後、運命の糸がようやく結ばれるという、ざっくりと言えばそんなお話です。
なので男女の恋愛のお話ではあるのです。
あるのですが、ただそこだけがこの映画のテーマではないように私は感じました。
「縦の糸はあなた 横の糸は私」に続く歌詞は
「織りなす布は いつか誰かを 暖めうるかもしれない」(1番)
「織りなす布は いつか誰かの 傷をかばうかもしれない」(2番)
です。
この映画のテーマは、縦糸のあなたと横糸の私のお話だけではなく、「織りなす布」が「誰かを暖め」「誰かの傷をかばう」ことなのじゃないかと思うのです。
映画『糸』感想 誰かを暖め、傷をかばう布を織る「糸」
映画「糸」は、漣と葵という2本の糸を中心に描かれていますが、織られた布は2人の糸だけではなく、彼らを取り巻く仲間や家族の糸が織りなした布でもあると私は思います。
その象徴が、漣と、妻の香(榮倉奈々)との間に生まれた娘の結(稲垣来泉)です。
香は結に教えます。
「泣いている人がいたら、後ろから抱きしめてあげなさい」と。
漣の糸と、香の糸で大切に織った布である結。
その結が、泣いている葵の背中を優しく抱きしめるシーン。
このシーンこそ、まさに織りなす布が誰かを暖め、誰かの傷をかばうシーンです。
そして人生という糸はつながっていき、重なり合って、またあたらしい布を織っていく。
たとえ自分の人生は終わっても、脈々と糸は紡ぎあい、優しく大きな幸せという布を織っていく。
「糸」の歌詞の最後は「逢うべき糸に 出会えることを 人は 仕合わせと呼びます」で結ばれます。
漣と葵の糸はもちろんですが、それだけでなく、香や香の両親、結、親友、職場の仲間、そして、自分を捨てた母親でさえ逢うべき糸であったと思えた時、幸せと呼べるのかもしれません。
ちなみに「幸せ」と「仕合わせ」の違い、ご存知ですか?
「幸せ」とは、めぐり合わせが良いことで、「仕合わせ」とは、めぐり合わせや運命そのもののこと、だそうです。
「仕合わせ」には、良いとか悪いとかは含まれない、ということなんですね。
中島みゆきさんの歌詞は「仕合わせ」を使ってますね。
映画『糸』感想 平成史を振り返る人間ドラマ
この映画のもうひとつの見どころは、平成の31年間を振り返る、壮大なスケールのドラマでもあるということです。
平成という時代、振り返ってみると、その年号とは裏腹に、実に起伏に飛んだ時代だったように思います。
東日本大震災をはじめ、たくさんの災害に見舞われました。
バブル崩壊やリーマンショックなど、世界規模で様々な金融危機もありました。
その一方で、シンガポールのように急速に発展を遂げた東アジアの都市。
そういった、平成を象徴するような場所や出来事が、この物語の登場人物たちの人生にも色濃く反映されています。
主人公の蓮と葵は平成元年生まれ。
ちなみに漣と葵という名前も、平成生まれの赤ちゃんの人気の名前だそうです。
平成という時代に翻弄されながら生きる登場人物たち。
彼らの誰かに、自分を重ねて見てしまう人も、きっと少なくないでしょう。
そんな群像劇としても楽しめる作品だと思います。
映画『糸』実力派のキャスト・スタッフ陣
小松菜奈の演技力が光る!!
キャスト陣のなかで特に目を引いたのが、主演の小松菜奈さんです。彼女の存在感が非常に光っていました。
子供の頃に虐待を受けた過去を持ち、それでも自分の力で生きていこうと道を切り開いていく女性を、実にたくましく演じています。
誰かに守られる人生じゃなく、誰かを守る人生でありたい。
握った手は絶対に離さない。
どんなに逆境になっても、常に前向きに、大切なものを見失わずに進んでいく。
そんな葵の姿を、自然体で演じきっているように見えました。
親友に裏切られ、失意の中、カツ丼を食べながら「大丈夫、大丈夫」と涙ながらに自分を鼓舞するシーンは特に印象に残っています。
食べる演技って、とても難しいのです。
しかもただ食べるだけでなく、泣きながらガツガツと食べる。
葵の悔しさとたくましさを見事に体現しています。
パパ役も超自然な菅田将暉
W主演のもうひとり、菅田将暉さん。
今や若手俳優の中で最も力のある俳優さんと言って間違いないでしょう。
「帝一の國」のようなエキセントリックな役も魅力的ですが、今回のような繊細な心情表現も見事に演じきっています。
今回初めて子供のいる父親役だったそうですが、全く違和感を感じさせません。
子供を抱っこする姿も様になっていて自然でした。
きっとこれからさらに素敵な歳のとり方をして、役の幅を広げていかれることでしょう。
楽しみです!!
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難役も圧倒的存在感の榮倉奈々
主演のお二人にも負けない存在感と演技力を見せてくれているのが榮倉奈々さん。
漣が最初に結婚する女性なのですが、妊娠と同時に癌が見つかるという難役。
瀬々監督とは3度目ということもあってか、お互いに全幅の信頼関係の中で作り上げているのだなということが伝わってきます。
闘病中の車椅子の姿は、減量したとはいえ、そこまでの役作りには息を飲みました。
そして、やせ細った体で漣に自分の思いを話し、漣の背中を押そうとする姿は、神々しくさえあるのでした。
余談ですが、夫の賀来賢人さんも「半沢直樹」でとても良い演技をしていて、私自身しびれました。
夫婦揃ってのご活躍、素晴らしいですね!!
脚本は日本アカデミー賞2度受賞の林民夫
脚本の林民夫さんは「永遠の0」(2013)や「空飛ぶタイヤ」(2018)で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞しています。
また「チア・ダン」(2017)などの作品も手掛けています。
今回は曲をモチーフに脚本化するということで、大変なものを引き受けてしまったという思いと、誰にも渡したくないという気持ちの両方だったそうです。
また、小説版の「糸」も同時に書かれています。実際に読んだ人の感想などをSNSなどで見ますと、非常に高評価です。
興味のある方は、映画を観る前にでも、観たあとにでも、手に取られてはいかがでしょうか。
映画では出てこなかった裏設定なども知ることができるそうですよ。
監督は「8年越しの花嫁」の瀬々敬久監督
「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(2017)や「64-ロクヨン- 前編/後編」(2016年)などの作品で知られる瀬々監督。
もともとはピンク四天王と呼ばれるほどの、ピンク映画界の巨匠です。
またご自身も俳優として作品に出演されていたこともあるそうです。
京都大学哲学科出身の瀬々監督は、現場ではかなりシャイな方らしく、特に女性と話すのは苦手だそう。
それでピンク四天王なのですから、なんとも面白いというか、逆に親近感が増しますね!!
映画『糸』感想まとめ~なぜめぐり逢うのか
平成を乗り越え、令和の時代。
今こそ誰かを暖め、誰かの傷をかばう布を、ひとりひとりの糸で織るときなのではないのかと、映画「糸」を観て思いました。
「なぜ めぐり逢うのかを わたしたちは 何も知らない」で始まる「糸」の歌詞。
でも、きっと偶然のめぐり逢いはない。
出会いはいつでも必然で必要なもの。
何度切れても結び直せばいい。
何度離れてもまた繋げばいい。
泣いている人がいたら、そっと優しく背中を抱いてあげよう。
あなたの背中も優しく抱きしめてくれる、そんな素敵な作品です。
2020年8月21日に劇場公開される映画「糸」。菅田将暉さん、小松菜奈さんのW主演で注目を集めている作品ですが、先日知り合いが、小説「糸」を読んだと言っていました。たしかに公開を前にして、小説「糸」はとても面白かった!!映画[…]