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映画『星の子』ネタバレ感想・見どころ~揺れと優しさに満ち溢れた作品

  • 2020年10月12日
  • 2020年11月27日
  • 邦画

この映画がオススメかどうか教えてと言われたら、正直ちょっと悩みます。

なぜならこの作品は、観客を選ぶような気がするからです。

言い方を変えれば、観る人によってこの作品から受ける印象はまったく異なるでしょう。

観る側に委ねられる部分が大きいと思います。

賛否が分かれるであろう映画『星の子』の、私なりの感想、見どころをお伝えします。

内容は多少のネタバレを含みます。まだ観ていない方はご注意ください

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映画『星の子』ネタバレ感想・見どころ~分かりやすい答えのないところ

この映画は、特に大きなドラマがあるわけでもないし、大きな事件が起きるわけでもありません。

また、何らかの答えを出してくれるわけでもありません。

娘(芦田愛菜)の病気が治った水をきっかけに、両親(永瀬正敏、原田知世)が、とある宗教団体にはまっていくのですが、だから宗教は危険だとか、私財を投げ出して宗教に傾倒するのは間違っているとか、そういうことを言っているわけでもありません。

「カルト宗教に傾倒する両親を教団から救う娘の話」とか「カルト宗教の悪事を暴く少女の孤軍奮闘物語」とか、そういう分かりやすいドラマや事件でもあれば、見てる方もドキドキワクワクがあって面白いのかもしれませんが、そういうものもありません。

最近、「半沢直樹」が大ヒットしましたね。

多くの人はあのように弱者を悪から救う勧善懲悪物が好きなのでしょうか。そういう人には『星の子』は、ちょっと退屈に感じるかもしれません。

また、時間のない現代人は、とかく答えを早く求めがちです。

まずは答えから述べましょう。そしてその後に理由や具体例を述べましょう…などは、よく言われることです。

もし現代がそういう風潮だとしたら、この映画はぼんやりとして物足らなさを感じるかもしれません。

実際、私の隣のお客さんは、途中から爆睡していましたし、映画を観た人のレビューなどを見ると、「あれ?これで終わり?」とか、「正直良く分からなかった」という意見も数多く見られます。

大きなドラマも事件もない、勧善懲悪でもない、何か答えを示してくれるわけでもない、結論を示してくれるわけでもない…。

でも逆に言えば、そこがこの映画の最大の見どころとなっているのです。

映画『星の子』感想~大森立嗣監督が撮りたかった「生きる」ということとは

監督も映画の答えは分からない

監督自身、この映画の答えは自分でも分からないと言っています。

作り手からすると、このようなことを言うのはとても勇気がいります。

観客に伝わるかどうかは別として、作り手は答えを持っていないといけないと思っている(思われている)からです。

ラストシーンの意味はなんですかと聞かれて、分かりませんと答える勇気は通常は持ち合わせていません。

でも大森立嗣監督はこの映画のラストシーンについて問われても「僕にもはっきりとした答えはない」と述べています。

監督が見せたかった「心の揺れ」

監督がこの映画で見せたかったこと、それは「少女の繊細な心の揺らぎ」です。

答えは分からない。

でも少女は、自分を取り巻く様々な現実に心を揺らしながらも、一生懸命に答えを見出そうとします。

そして、その役割を、芦田愛菜さんは見事に演じています。

決して多くないセリフ。表情や景色だけが映し出されるシーン。

説明しすぎない映像は、観る側に答えを求めてきます。

同じことは少女の両親にも言えます。

両親も、自分たちの人生に揺れています。

子育てに悩み、揺れてきたからこそ、宗教にすがり、答えを求めようとしたのかもしれません。

ラスト、親子3人で一緒に流れ星を見ようと満点の星空を見上げながら「まだ見えないな…」とつぶやく父。

その言葉に、3人の「心の揺れ」が象徴的に描かれているように感じます。

3人一緒の答えは、なかなか見えません。

そして、なかなか見えない答えを求める「心の揺れ」こそが、監督の撮りたかったものであり、監督の考える「生きる」ことそのものなのです。

映画『星の子』感想~優しさに満ち溢れた作品

両親の優しさ

この映画はとにかく優しさに満ち溢れています。

両親が新興宗教にはまってしまう。

でも、もともとの原因は、愛するわが子を病気から救うため。

知り合いに勧められ、藁をも掴む思いで試した水が奇跡的に効いて、子供の病気が治る。

結果、水を販売している宗教に傾倒する。

治った子供も自然の成り行きで親と一緒に入信する。

きっと多額の献金とか、お布施とか、霊感商法的なものもあるのでしょう。

結果的にこの家庭は経済的に困窮し、暮らしは貧しくなっていきます。

でも、貧乏だからといって、ギスギスした家庭になって崩壊してしまう、というようなことはありません。

両親は変わらず優しく、いつだって娘のことが一番大切だし、愛情に溢れています。

娘もそんな両親が大好きだし、ずっと一緒にいたい、信じたいと思っています。

お互いがお互いのことを痛いほど思っています。

その思いが、切なく、そして温かく胸に迫ってくるのです。

友達の優しさ

この、相手を思う優しさは、両親と娘だけに描かれているわけではありません。

例えばちひろと同級生のなべちゃん(新音)。

彼女はちひろの両親が怪しい宗教にはまっていることを知っています。

ときにはふんわりと「あんた騙されてるんじゃないの?」と指摘したりもします。

でも、だからといって、ちひろとの友情はが変わることはなく、いつもちひろを気にかけ、味方でいてくれます。

なべちゃんの彼氏で同じく同級生の新村くん(田村飛呂人)も同じです。

緑色のジャージ姿のちひろの両親を見て「カッパかと思った」とトボけたことを言いますが、それでもちひろのことをバカにするとか、揶揄するとか、そんなことはしません。

とぼけた言動も、ちひろを深刻にさせないための、彼なりの優しさ、思いやりなのかなと思います。

なべちゃんも新村くんも、必要以上に優しいわけではなく、そっとちひろに寄り添います。

偏見なく、周りに流されずにちひろを見て、信じて、そっと寄り添ってくれます。

今は、SNSなどで、あっという間に情報が広まってしまう世の中です。

誤った情報が誤った偏見を生み、差別を生む。

本当に怖い世の中です。

でも、なべちゃんも新村くんも、そんな誤った情報に左右されることなく、目の前のちひろだけを見て寄り添ってくれる

その優しさが見ているこちらにも伝わってきて、なんだかこっちまで優しい気持ちになるのでした。

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映画『星の子』感想~まとめ

以上、映画『星の子』を観た感想と見どころを書いてみました。

まだ観ていない人にオススメかどうか聞かれると、ちょっと悩む作品ではありますが、全編通して私はとても優しく温かな気持ちになりました。

特に大きなドラマがあるわけでもないし、何かが解決するわけでもないので、そういうものを期待して観に行くと、ちょっと物足りなさを感じるかもしれません。

でも、だからこそ見えてくる、ひとりの少女の心の揺れや、彼女を取り巻く社会(親、親戚、友人、学校)の有り様が見えてきます。

その受け止め方は、観る側によって千差万別でしょう。

でもそれでいいのです。

あまりにも情報が溢れ、自分の目で見て、自分で判断する機会が減ってしまっている今の世の中。

でも、この映画に出てくる主人公・ちひろや、彼女の親友たちは、噂に惑わされず、自分の目で見て、自分たちで判断しようとしています。

まだ答えは出ません。

そもそも、そう簡単に答えなんて出ないものなのかもしれません。

今はだた、揺れながらも、信じるものをきちんと見ていく。

その、答えを見つけようとすることそのものが、生きるということであり、映画『星の子』で伝えたいことなのだと思います。

また原作は、芥川賞と本屋大賞のダブルノミネート作品です。

私は原作未読なのですが、強烈に読みたくなりました。

映画はほぼ原作通りだということなので、原作の良さが、十分に映画にも反映されているのでしょう。

原作ファンの人にはオススメできる作品かもしれません。

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