【※第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞(草彅剛)、最優秀作品賞受賞、おめでとうございます!!】
SMAP解散後、あまりテレビでは見ることができなくなった草彅剛さんの演技。
以前はたくさんの主演ドラマが放送されていましたが、今回は少し久しぶりな感じがします。
しかもトランスジェンダーという役どころということで、早速観てきました。
そこには草彅剛さんの、演技者としての他の追随を許さない凄みがありました。
「映画『ミッドナイトスワン』感想 草彅剛・演技者としての凄さを観る」
では早速内容に入っていきましょう。
映画『ミッドナイトスワン』あらすじ
新宿のニューハーフショーパブで働くトランスジェンダーの凪沙〈なぎさ〉(草彅剛)。
ある日凪沙は、故郷で母親から虐待を受けていた姪で中学生の一果〈いちか〉(服部樹咲)を養育費目当てで預かることになります。
叔父だと思って訪ねてきた一果は凪沙の姿に戸惑いますが、2人の奇妙な共同生活が始まります。
バレエ教室の前を通りかかった一果は、先生の実花(真飛聖)に声をかけられ、バレエのレッスンに参加することになります。
月謝を払うため、凪沙に内緒で違法なバイトをし、警察沙汰になる一果。
一果の孤独を自分と重ねながら、強くならなきゃいけないと諭す凪沙。
やがてバレリーナとしての一果の才能を知り、凪沙は一果のために生きようと決意します。
凪沙の中に芽生え始めた母性。
母になりたいという思いとともに…。
映画『ミッドナイトスワン』キャスト・スタッフ
●キャスト
- 凪沙…草彅剛
- 桜田一果…服部樹咲
- 桜田早織…水川あさみ
- 洋子ママ…田口トモロヲ
- 片平実花…真飛聖
- 瑞貴…田中俊介
- キャンディ…吉村界人
- アキナ…真田怜臣
- 桑田りん…上野鈴華
- 桑田祐美…佐藤江梨子
- 桑田正二…平山祐介
- 武田和子…根岸季衣
●スタッフ
- 監督・脚本…内田英治
- 音楽…渋谷慶一郎
映画『ミッドナイトスワン』感想 草彅剛の凄み
平日昼間のせいなのか、草彅ファンのせいなのか、観客はやや落ち着いた感じの女性多数。
なかなかにハードな内容でしたが、中盤辺りからは鼻をすする音があちらこちらから聞こえてきて、その音は最後まで途切れることはありませんでした。
あらためて見せつけられた
草彅さんは、バラエティなどで見せる顔はちょっと天然というか、優しい好青年、という感じがしてあまり影を感じないのですが、これまでに演じた役柄で言えば、ちょっと影があったり、鬱屈していたり…と、バラエティとはまったく違った顔を見せてくれる印象です。
そして今回の役どころもまさしくそんな感じ。
トランスジェンダーとして新宿のショーパブで生きる凪沙を、実に美しく、切なく、見事に演じられていました。
タイプに分けられない、草彅剛というタイプ
私は役者さんを見るとき、2つのタイプに分けて見ることが多いのですが、ひとつは木村拓哉さんのように、役を自分に引き寄せて演じるタイプ。
もうひとつが、役に自分を近づけて演じるタイプ。たとえば堺雅人さんのようなタイプです。
でも、こと草彅剛さんに限っては、そのどちらとも言えないような感じがするのです。
嘘がつけない草彅剛の演技を超えた演技
今回の役はトランスジェンダーですから、外見も中身も、かなり役を作り込まなくてはならないでしょう。
でも草彅さんの場合
作り込んだ役の中にも、草彅剛がしっかり見える、草彅剛が感じられる
のです。
草彅剛がトランスジェンダーだったら、きっとこうだろうなと思わされてしまう、そんな感じでしょうか。
なぜそう感じるのでしょう。
そこにはきっと、草彅さんの演技の中に、演技を超えた部分、嘘のない部分があるからだろうと思います。
もっと言えば
がそこにいるからなのだと思います。
瞳の奥に存在する草彅剛の説得力
特に今回は、一果を見つめる凪沙の目のアップにそのことを感じました。
長い付けまつ毛、濃いアイシャドウ。
見た目は完全に作り上げた凪沙の目なのに、その瞳のずっとずっと奥に、草彅剛が偽りなく存在しているのです。
凪沙を纏った裸の草彅剛が、その瞳に宿っているのです。
だからこそ、その目には説得力があり、見るものの心を打つのだと思います。
トランスジェンダーとして生き、そして一果のために生きた、凪沙という名前の草彅剛が、確実にそこにいるのでした。
映画『ミッドナイトスワン』感想と考察(多少ネタバレを含みます)
一果のために本当の母になろうとする凪沙
なぜそこまでしたのか、できたのか
自分に生まれてくる母性という感覚
驚き、戸惑い、喜び、そして切なさ…
凪沙の覚悟
この映画で私が最も心を揺さぶられたのが、海外で性転換手術を受けて、心も体も女になって一果を連れ戻しに来るシーンです。
広島に連れ戻され、バレエから離れてしまった一果に凪沙は言います。
こんなところにいてはダメ
踊るのよ
凪沙は、家族や親戚にも、自分がトランスジェンダーだということを隠して生きてきました。
初めて女として故郷に帰った凪沙。
母親(根岸季衣)からは、あなたは病気だから治してこいと言われ、親戚からは女になった身体を見て化け物呼ばわりされます。
もちろんそうなることは分かっていたでしょう。
それでも、それを承知で、覚悟で、一果を連れ戻しにやって来た凪沙。
「私は女になった。だからあなたのお母さんにだってなれるのよ」
膨らんだ乳房をあらわにしてそう言い放つ凪沙。
その覚悟というか、一果に対する思い、一果の才能を無駄にしてはいけないという強い思いが胸に突き刺さってきます。
海外での性転換手術は、一歩間違えれば命を落とす危険さえある。
いつかは女の身体になりたいと望んでいたとは言え、凪沙にその大きな決断をさせた一果の存在とは一体何だったのでしょう。
死んでもいいから守りたかったものとは、一体何なのでしょうか。
女として母として、本当の自分になれた喜び
なぜ、どうしてここまでするのか、できるのか。
「お母さん、一緒に頑張りましょう」
一果が通うバレエ教室の先生・実花(真飛聖)に言われ、無邪気に喜ぶ凪沙の姿がとても印象的です。
そこには凪沙に芽生えた、母性に対する絶対的な喜びがあったのではないでしょうか。
最初、凪沙は一果に対して「私、子供嫌いだから」と言っています。
それは本心なのでしょう。
いくらトランスジェンダーだと言っても、子供を産めるわけじゃない…。
男としての自分の性別に違和感を感じていても、自分の中の母性までは想像していなかったのではないでしょうか。
それが一果と出会うことで、自分の中に芽生え始めた母性に気づき、はじめは戸惑いながらも、それがやがて喜びに変わる。
絶対になれないと思っていた母親に、想像もしていなかった母親に近づいていく。
子供嫌いだと思っていた自分が、子供のためにすべてを捧げようとしている。
これが女なのだ
これが母なのだ
やっと本当の自分になれたのだ
そう感じたのではないでしょうか。
もうあなたを孤独にはしない…母として守る決意
もちろん相手が誰でも良かったわけではないでしょう。一果だからこそ、そう思えたのでしょう。
トランスジェンダーとして生きてきた自分の孤独と、親から虐待され、育児放棄されて生きてきた一果の孤独が重なったのでしょう。
自分たちのようなものは強くならなきゃいけないと、一果を抱きしめながら凪沙は言います。
実の母親(水川あさみ)からは「あんたのために働いているんだ」と散々言われて育った一果。
凪沙が自分のために就職したと聞いて「そんなこと頼んでない」と一果は反発します。
でも、荒れる一果をじっと辛抱強く「こっちに来て」と諭す凪沙。
一果を抱きしめ、よしよしと優しく頭を撫でてあげます。
強くならなきゃいけない。
でも、もうあなたを絶対に孤独にはさせない。
私があなたを守る。
そう決めた凪沙の一果を撫でる手は、本当に優しく、慈愛に満ちているのでした。
映画『ミッドナイトスワン』感想 まとめ
以上「映画『ミッドナイトスワン』感想 草彅剛・演技者としての凄さを観る」と題してお届けしました。
草彅剛さんの演技者としての底力を、新ためて見せつけられたと感じます。
また、一果役の新人・服部樹咲さんの、まだ何色にも染まっていない魅力も、この映画の見所です。
演技経験ゼロだそうですが、バレリーナとしては全国レベルで、踊る姿は流石といったところ。
バレリーナ出身女優といえば草刈民代さんが有名ですが、ぜひ第2の草刈民代になってほしいものです。
脇を固める役者陣も、田口トモロヲさん、根岸季衣さんらベテラン勢に、元宝塚トップスターの真飛聖さん、そして田中俊介さん、吉村界人さんなどの、若手実力派がうまく融合されています。
全編を流れる音楽もまた印象的で、美しく切ない映像をより際立たせてくれます。
ぜひぜひ映画館で観ていただきたい、そんな素晴らしい作品だと思います。
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