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映画『初恋』感想 三池作品初心者の私が観た貪欲で力強い生への渇望

  • 2020年3月1日
  • 2020年11月27日
  • 邦画

正直に言おう。

私は三池監督の作品を映画館で観たことがない。

今や世界のミイケだ。

曲がりなりにも俳優をやっている私がそんなことはあるまい…と自問自答してはみたものの、やはり思い出せない。

あ、一作だけ観たことがあった。でもそれは映画ではなく、哀川翔主演の舞台「座頭市」だった(三池監督は舞台の演出もしている)。

そうだ、そもそも私はバイオレンス作品が苦手だったのだ。

血がドバーッとか、首がゴロロンとか、ドンドンパチパチボッコボコ、みたいなのがあまり得意ではない。

三池監督といえばバイオレンス

もちろんそれだけではないのだが、持ち味というか、私の脆弱なイメージとしては鮮烈な暴力描写だ。

この映画を観るかどうか迷っている三池ワールド初心者のあなたもきっと同じかもしれない。

その三池監督が今作について

初めて撮ったラブストーリーがカンヌに選ばれた。幸せです。バイオレンスよ、さらば!

とコメントしていた。

なになに、バイオレンスよさらばだって!?これはいけるんじゃないか!

…ということで、早速映画館へGO!!

結果は…

見事に裏切られた~!!

ドバーッ、ゴロロン、ボッコボコ…

三池ワールド全開作品。

『初恋』なんて甘いタイトルだから、ほんわか桃色ラブストーリーかと思ったら大間違い。

そこは三池監督ですからね、そんなはずはあるわけない。

桃色どころか鮮血飛び散る真っ赤な映画。

裏切られたと思ってもここは映画館、途中で止めることなんてできない。

隣の女の子は途中で席を立ってしまったけど…(汗)

…とまぁ、そんなこんなである意味強制的に三池ワールドを味わったわけなのだが、しかし意外にもそこから感じたのは単なる残虐性ではなかった

ヤクザ役の染谷将太に「今日これで何人目だ?」と言わせるくらいバッタバッタと人が殺されていくのだが、観終わって一番強く感じたのは、貪欲で力強い生への渇望、人間の底しれぬ逞しさだった。

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【映画『初恋』感想】生への渇望・その①~窪田正孝のパンチ力~

この物語は、窪田正孝演じる将来を嘱望された天蓋孤独のボクサー・葛城レオが、父の借金のためにヤクザに売られた少女・モニカ小西桜子)を偶然助けたことから自分もヤクザに追われる羽目になる、という話なのだが、窪田君のボクサー役がとにかくいい。

窪田君といえば最近ではCX月9ドラマ「ラジエーションハウス」での放射線技師役が印象的だが、NHK「4号警備」でのアクションも印象深い。かなり身体が切れる俳優だと思っていた。

今回のプロボクサー役や、ヤクザとの格闘シーンで放つパンチがとにかくズドンズドンと重い。親の顔も知らない捨て子だった彼のパンチからは、一発一発が「生きてやる、生きてやる」と聞こえてくる。

勝ったらもっと自分をアピールしろとトレーナーに言われても、そんなことには興味はない。

天涯孤独の彼に生きる意味は分からないけど、パンチを叩き込むことで生きてる実感は味わえる。

そんな彼のパンチは、観ているこちらの胸にもズドンと重いのだった。

【映画『初恋』感想】生への渇望・その②~染谷翔太のねちっこさ~

染谷翔太演じるヤクザ・加瀬の策士ぶりも際立つ。

いや、正確に言えば、彼の策略はことごとく失敗するのだが、それでも手を変え品を変え、口八丁手八丁、撃たれても切られても立ち上がってくる。

まさにターミネーターのようなねちっこさ!!(笑)

強烈な生への渇望が感じられる。

今回、窪田正孝とダブル主演といってもいいくらいの存在感だ。

とにかくいい表情を随所に見せてくれる。

特にカメレオンみたいな爬虫類系の眼の表情がいい。

カメレオン並みに、時に冷静、時にエキセントリック、そして時にコミカルな振り幅のある演技は、彼の引き出しの多さを見せつける。

染谷翔太の魅力がギュッと詰まっている今作。

三池ワールド初心者のみならず、染谷翔太初心者のあなたも、必見です。

【映画『初恋』感想】生への渇望・その③~ぶっ飛びベッキー~

ドアが開いてすらりと伸びた細い脚がヒロインの小西桜子を吹っ飛ばす。
登場したのはヤクザの構成員の彼女役、ベッキーだ。
今作で最も注目されるのは、間違いなく彼女だろう。

ベッキーといえば元気で明るい女の子。

子供のころから人気タレントで、それこそあの不倫騒動の時は「あのベッキーが?」と誰もが驚いたくらい優等生なイメージだ。

そのベッキーが鉄パイプ引きずって鬼の形相で歩いている姿、あなた想像できますか?

ちょっとマニアックかもしれないが、ベッキーの前蹴りがとにかく秀逸(笑)

ベッキーの、短パンからすらりと伸びた細い脚が、相手の腹にズドンとめり込み吹っ飛ばす。

暴力とは無縁に思えるベッキーのぶっ飛んだ演技にただただ圧倒されるのだが、愛する男を殺されて復讐に燃える鬼と化すところは、まっすぐにひたむきなこれまでのベッキーと重なってこれまたグッとくる。

ベッキーだってもういい歳だ。
いつまでもただの良い子でいられるはずはない。
それこそ有象無象ひしめく芸能界で生き抜いてきたのだ。

ウォーーーーッ!!

と叫びたい時もあっただろう。

これまでのイメージをぶっ壊して生き生きと叫んでいるベッキーに、彼女の女優としての魂の叫びを感じずにはいられなかった。

本当にすごい、素晴らしい!!
今から年末のショーレースが楽しみだ。

【映画『初恋』感想】生への渇望・その④~多作の三池監督~

他にも大森南朋、塩見三省、内野聖陽、村上淳…と、それこそ生と死が隣合わの世界観がハマるキャスト陣なのだが、彼らの魅力を最大限に引き出して映像化している三池崇史監督そのものが、そもそも一番生きることに貪欲で生を渇望しているのではないかと思う。

三池監督といえば多作で有名。

来た仕事は基本的には断らず、大小種類に関わらず来た順で受けるという。

他の監督の作品はあまり観ない。

創ることに忙しく、他の作品を観てる時間がないというのが理由だそう。

とにかく撮って撮って撮りまくる!!

映画監督として生きて生きて生きまくる!!

常に挑戦しまくっている!!

これだけパッションに満ちた作品を創るのに、ご本人はいたってジェントルマンなんだそう。

ちょっとイカツイ見た目のギャップと相まって、スタッフ、キャスト、そして彼に関わる全ての人を魅了しているのだろう。

今回の作品『初恋』は、三池作品初心者の私にとっては十分バイオレンスなんだけど、三池監督自身からしたら全然バイオレンスじゃないのかもしれない。

過去の三池作品を強烈に観たくなった。

実写版の「ヤッターマン」なんかもある。

いったい何者なんだ、この監督は!!

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【映画『初恋』感想】生への渇望・まとめ~私、生きてみる~

今、この原稿を書いているカフェの後ろの席で赤ちゃんが大泣きしている。たまらずお母さんが外へ連れて行った。

静かな店内ではそれこそ暴力的な泣き声だけど、考えてみればこれほど生への欲求に満ち溢れたものはないだろう。

ちょっと強引かもしれないが、三池作品にも同じようなものを感じた。

寒い冬の朝に、血まみれになったレオとモニカが学校の校庭にあるプールのシャワーで冷水を浴びてキャーキャー言いながら血を洗い流す。そんなちょっとしたシーンにも生への欲求と人間の逞しさを感じた。

最後に、この映画で最も印象に残ったセリフをひとつ。

ヒロイン・小西桜子演じるモニカが最後に放つひとこと

私、生きてみる

なんだかどうしようもなくグッとくるひとことだった。

 

そうそう、上映途中で席を立ってしまった隣の女の子だけど、5分後には戻ってきた。

映画がつまらなかったわけじゃなく、単なる生理現象か…

これもある種、生への素直な欲求なのかな、なんて、しょーもないことを思いつつ…。

 

『初恋』

2020年2月28日公開
監督:三池崇史
配給:東映

天涯孤独の身で類まれな才能を持つ天才ボクサーの葛城レオは、試合でまさかのKO負けを喫し病院へとかつぎこまれた。医師から自分の余命がわずかであるという事実を突きつけられ、自暴自棄になりながら歌舞伎町の街を歩くレオの目に男に追われる少女モニカの姿が飛び込んでくる。ただごとではない様子からレオが反射的にパンチを食らわせた男は、ヤクザと裏で手を組む悪徳刑事・大伴だった。モニカは親の虐待から逃れるため歌舞伎町に流れ着き、ヤクザにとらわれていたという。レオは彼女を救うことを決意するが、その選択はレオがヤクザと大伴から追われる身となることを意味していた。(映画.COMより抜粋

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