今や日本を代表する実力派俳優の阿部寛。
しかしデビュー当初は、モデル上がりで見た目はいいけど演技が単調で役の幅が広がらない…と、今では想像できないような惨憺たる評価でした。
そんな中、30歳を過ぎ、彼が意を決して門を叩いたのが劇作家・演出家の、つかこうへい氏でした。
つか氏の舞台で極限まで感情を解放し、自分をさらけ出し、モデルとしてのイメージをぶっ壊す。
しかも、ただ感情だけに依存するのではなく、しっかりと分析し、役を作り込み、誰も真似の出来ない阿部寛像を自ら作り上げる。
彼の演技力の凄さは、まさにこの両者のバランスにあったのです!!
そこで今回は、彼がつかこうへい氏のもと、どのようにして自らの演技力を手に入れ、磨いていったのか見ていきたいと思います!!
阿部寛の演技力を支えたつかこうへい~お前を食える役者にしてやる
つか氏に「お前を食える役者にしてやる」と言われたという阿部寛。
それまでも、「俳優再生工場」と言われたつか氏の舞台を経験して、一皮も二皮も剥けた人は沢山いました。
だとすると、つか氏はその俳優のどこを叩いてどこを引き出せば売れるかということが分かっていたのでしょう。
そのために用意したのが『熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン』での「バイセクシャルで棒高跳びの選手だった敏腕刑事」というとんでもない役だったのです!!
舞台『熱海殺人事件』とは
つかこうへい作・演出の代表作。
演劇界の芥川賞とも言われる岸田國士戯曲賞受賞作でもある。
出演者によっていろいろなバージョンがあり、人物設定も、同性愛者だったり精神異常者だったり、男だったり女だったりする。
自己の感情を解放しすべてをぶっ壊す阿部寛の演技力
私はこの舞台を渋谷PARCOで生で観ています。
もう20年も前の舞台ですが、その圧倒的な熱量に、ただただ度肝を抜かれたことを今でも鮮明に覚えています。
役者が最初に求められるのは、自己の感情を開放することだと言われます。
カッコつけてても始まらない、ということです。
身も心もさらけ出せ!!
己の殻をぶっ壊せ!!
ということです。
白鳥の湖の大音量の中、上半身裸で登場し、オカマ口調で速射砲のようにセリフを叫び、舞台上を所狭しと飛び跳ねる
…いや冗談じゃなくて、奇声を発しながら本当に飛び跳ねるんですよ、ピョンピョンと!!
そんな阿部ちゃん、想像できますか?
まさに、すべてをぶっ壊した『俳優・阿部寛』が誕生した瞬間でした。
役を作りあげる楽しさを知った阿部寛の演技力
役者が持つ能力を最大限に引き出すつか氏独特の演出で阿部寛もその才能を開花させました。
しかも同じ役者をしている私としては、引き出してもらっただけでなく、自ら作り上げる楽しさも味わったのでないかと想像します。
本人にしてみればそんな余裕はなかったかもしれません。
しかし苛烈を極めると言われたつか氏の演出を受けるには、ただ受け身なだけでは到底太刀打ちできなかったでしょう。
引き出してもらうと言っても、結局は自分で考えて作っていかなければならないのです。
つか氏の求めているものは何なのか、自分には何が足りないのか、と。
役を作るのは演出家でも誰でもなく、結局は自分自身なのです。
例えば「結婚できない男」での桑野役。表情や歩き方などかなり作り込まれていますよね。
ドラマ「結婚できない男」
フジテレビ系列で2006年に第1シリーズ、2019年に第2シリーズ(「まだ結婚できない男」)が放送された、阿部寛主演の人気ドラマ。
偏屈で独善的、皮肉屋だがどこか憎めない主人公の桑野(阿部寛)が、ひとりの女声との出会いをきっかけに、結婚を模索する様子をコミカルに描いている。
阿部寛の演技を支える分析力
阿部寛は中央大学理工学部卒業です。
役者というと感覚人間でどちらかと言えば文系のイメージを持たれがちですが、理系の阿部は物事を分析して客観的に捉えることが得意だったかもしれません。
そしてその力は役作りにも活かされているように思います。
自分には何が足りないのか、どうすればこの役をものにすることができるのか、冷静に、客観的に分析し、自ら答えを導き出していく。
映画「テルマエロマエ」で見せた彫刻のような肉体を見ると、自ら彫刻を彫るように役作りする阿部の姿が重なります。
またこれはあるプロデューサーから聞いた話ですが、阿部は撮影の時、カットがかかると必ずモニターで自分の演技をチェックするそうです。
そのプロデューサーは「彼はナルシストだから」と笑っていましたが、私はそうは思いません。
自分はどう見えているのか。
自分がイメージした通りに役を表現できているのか。
画面に映った自分の姿を客観的に捉えて分析し、次に活かそうとしているのではないかと思うのです。
この分析能力の高さも、阿部の演技力のひとつだと思います。
余談ですが、阿部は俳優として食べていけない一時期、パチンコで生計を立てていたそうです。娯楽でなくパチプロのような生活だったわけですから、台を選んだり釘を見たり…と、かなり専門的だったとか。こういうところにも彼の分析好きの一面が見えるような気がします。
阿部寛の演技力~まとめ
以上、阿部寛の演技力がなぜ凄いのか見てきましたが、いかがでしたか。
「モデル上がりの使えない俳優」が「日本を代表する実力派俳優」になるためには、やはり特別な人との出会いと、真摯な努力があったんですね。
これから益々彼の演技から目が離せません。
今後の阿部寛の活躍に、大いに期待しましょう!!
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